ぼくのたからもの

男と女の間には、他人には踏み込めない世界がある。
チナウの「ぼくのたからもの」
http://ko.meadowy.net/~toro/20050608.html

彼は又会いたいと、驚くほど強く真剣に言った。
そんな気はサラサラ無かった彼女だが、酔いの回った勢いで、1週間後が誕生日だからその日ココに来ると言った。そしてそのままその約束は忘れた。彼女の誕生日は半年以上も先だった。

 
若く楽しい時間は瞬く間に過ぎる。

彼女はまたあの店に何気なく立ち寄った。本当に偶然なのだが、それはあの野暮ったい男性と話したちょうどキッチリ1年後だった。彼は真っ直ぐ彼女のもとにやって来た。それでも彼女は最初それが誰だかわからなかった。

偶然だねと声をかけられあの日のことを語りかけられ、ようやく思い出した彼女は破った約束の事なんかもまったくきにもせず、アラお久しぶりと悠然と微笑んで見せた。そして何事も無かったように和やかに談笑したが、彼がお手洗いで席を外した時顔見知りの男性がそばに飛んで来て、あいつやバイ奴だよと教えてくれた。

 
なんでも1年程前、似合わないスーツをかっちり着込み、大きなバラの花束を抱え、この店の開店から閉店までずっと、じっと座ってひたすら時計を見つめていたらしい。その異様な光景に、彼は店で一躍有名人になった。それ以来彼は毎日のようにこの店に顔を出し、誰とも親しくはならなかったがすっかり常連となっていた。

 
彼女は驚いた。戻ってきた彼に、アナタそうだったの?と聞くと、彼は少し照れながら、いや、誕生日にこれを渡したかっただけなんだよと彼女に小さなオルゴールを手渡した。
やっぱりやぼったい、ダサくてゴテゴテした安っぽいデザインだったが、チンチロリンとチープにかなでられる曲に、なぜかだか心が癒された。
その後数回デートを重ね、彼が彼女に異例のスピードでプロポーズ。
周囲の予想を大きく裏切り彼女はアッサリOK。


男と女の間には、他人には踏み込めない世界がある。

思わず3回読み直しました。第1感はトモ吉さんもついに「年貢の納め時」か?続いて第2感はトモ吉さんも「白馬の王子症候群」になったのか?第3感は「虚仮の一念」が通じるのか!開店から閉店までずっと、じっと座ってひたすら時計を見つめていたのはまだしも、それから1年間毎日のように店に顔を出して通って、一目惚れの彼女を待った。オルゴールを持って。この一途さが事業でも成功したんでしょうね。