頼むから救急車にして

ふらっと入ったカクテルバー。カウンタにすわった若くてきれいなOLが2人マスタとお話している。
「自分に酔っちゃうのね。パソコンなんか誰も触れないって私の所に回ってきて、ソフトインストールしたり、パッチかけたり、さくさくと資料作ったりしていると。なんて私ってできるんだろうと」
マスタ「すごいですね。何でもできるんですか」

10年以上前の新人社員の人は、専門家で無い限り普通はPCのお世話なんかできません。少しでもさわれる人の所に面倒くさい仕事は回します。
「でも、この前もらったプリンタまだつなげないの。どんなことでもできる人って尊敬しちゃう」
あやうくイスからずっこけるところだった。今はプリンタの接続なんて経験さえあれば、専門知識はほとんどいらない。昔はIBMとNECでプリンタケーブルが違うのは常識だったりしたけど。

 
その彼女にPCのことを色々と教えてくれる彼氏というのが、とてもユニーク。ある日会社に部屋の鍵を忘れてきた。男の友達と2人でマンションの2階に同居しているので、部屋には入れたのだけれど、翌朝友達が先に出勤。で彼はどうしたかというと、部屋の内側から鍵をかけてベランダから1階へ飛び降りた。コンクリートの土間に直接飛び降りたものやから複雑骨折で4ヶ月の入院。倒れているところを発見した隣人が、てっきり飛び降り自殺だとおもって警察に通報しようとしたので「頼むから救急車にして」と頼んだらしい。

 
「俺今入院しているんだ」
あわてて病院にかけつけた彼女が事情を聞いて
「一度塀に移ってからだったら良かったのに」
「大丈夫だと思ったんだけど、体力がついていかなかった」
「大体部屋に金目のものなんか何も無いでしょ。あるのはゴミくらい。こんどからは鍵を忘れたら開けたままでいくのよ」
「ウン、そうする」

 
連れの女の子が「でも彼のことだから体力増進とかやりそうじゃない?」
「そうなの。彼は入院中にプロテインを飲んで、鉄アレイをもって上半身の筋トレをしてムキムキマンになったの」
マスタも6-30もみんな大笑い。
「今は体は元のように痩せたけどね。熱しやすく覚めやすいの」
まあいいじゃない。二人の仲はまだ覚めていないようなので。
でもなんか今夜は救急車と消防車がはしりまわっている。