4歳児の記憶

あの夕焼けは忘れられない。
「○子、ここはどこだー。バスに乗り間違ってわからない」
乳飲み子を背中に背負って4歳の女の子の手を引いて途方に暮れる母親。
 
段々周りの山々は真っ黒になってくる。
もう少しで沈む夕日が真っ赤な夕焼けになって。周りには家一軒もない。駅からバスで1時間。終点で降りたら、全く見知らぬ所。バスは去って行ってしまい、途方にくれる母娘。心細いなんてものじゃない。

 
遠くに家の灯りがぼつんと一つ。
「あそこまで行ってみようか」
暗い夜道をとぼとぼと歩いていたら
「こんな時間にどこへ行くんだ?」
「○×まで」
「えー、あそこは遠いから、女子どもの足では無理だよ。よかったらうちに泊まっていきな」
幸いにも灯りのついていた家の親父さんだった。
 
途中に川があって橋のたもとに行くまで下り坂。思わず駆け足になりそう。
親父さんの家に着いて、囲炉裏の周りであたたまってほっと一息。
柿の実を食べたから、秋だった。

 
食事も終わり、用意してもらった布団は1組だけ。でも1人で寝る癖のついていた女の子は母親や妹と一緒に寝るのはイヤだと駄々をこねる。結局その家の子どもが親と一緒に寝ることになった。翌日、無事に親戚の家に着いたんだけど、電話もないような場所だったので、誰も心配していなかったとか。
 
この話を母親に話したら、
「よくそんな昔のことを詳しく覚えているわね」
母親は細かいことは忘れていたが、布団のことだけは覚えていた。よっぽど困ったんだろうな。女王様の4歳の時の記憶。

 
写真的記憶とか人の顔は脳内の記憶する場所が違うそうです。数字とか人の名前は記号やから、別の何かと関連付けないと記憶できないというか記憶の引き出しから引っ張り出してこれない。でも4歳くらいの子どもの記憶というのも、ある日突然蘇ることがあるんですよね。
 
子連れ人妻さんのお子さんも4歳くらいだったから、大人になって
「お母さん、いっぱいお父さん以外の男の人とデートしてたよね。もてたんだね」
とか言い出すかも。