告知

「私の母さんがいないこと、知ってるよね」
「えっ、初耳」
「私一人っ子だから、お父さんと二人きりの家族なの。お父さんは田舎に残っていて、近くに叔母さんがいるんだけど、この前お父さん入院したの。心臓の周りに水が溜まったから。手術の承諾は電話で私がしたのね。」

「そりゃ大変だ。でも手術は上手くいったんでしょ?」
「実は胃ガンで胃に穴が空いて血がたまっていたのね。肺にも転移していて末期なの。医者からは『覚悟してくれ』と言われたけど、まだ父に言ってないの。『もう退院する事はない』と言われて毎週、土日に病院にお見舞いに行くから忙しいのよ」
「お金も大変じゃん」

「入院費用の方はなんとかなるんだけど、交通費とかその他かかるから、仕事の方も休めないのね。お父さんは私に気を遣って『そんなに毎週来ることはない』って言ってくれるけど、私にしたら、もうこれっきり逢えなくなるかもと思うと行かざるをえないし、そうかといって告知できないからニコニコ笑って早めに帰ってくるのね」

この話を聞いていて、思わず涙がこぼれてきました。きっとお父さんも真面目な方で我慢できなくなるまで病院に行かずに手遅れになったんでしょうね。告知しても心臓が弱っているからガンの手術や治療もできないでしょうし、食事もできずに点滴だけでは、体力の回復も思うようにならない。告知すると、かえってガックリくる可能性の方が高いかも。

病院のお父さんの前だけでなく、職場でも変わらずにニコニコして頑張る姿をみているから、余計胸が締め付けられます。でもF子ちゃんは、誰かに打ち明けたかったらしくて、6-30にしゃべりだしたら止まらなくなった。それでも涙を見せないように明るい態度を保っている。6-30の方が慰めの言葉を失いました。


やさしく背中をなでてあげるのが、せいいっぱいでした。